痛みについての勉強をしてきました(神戸市・健康ライフプラザ)

土曜日は、兵庫駅のそばにある健康ライフプラザの講座にいってきました。

神戸市健康づくりセンター 健康ライフプラザ

最近は、各市区にもこのような健康センターや予防センターもあり
そういうところでも様々な健康イベントをしています。

民間でも 病院内で行っていることもありますし
スギ薬局の運営をしている杉浦記念財団でも
健康セミナーをしていたりしますよ(^^)

杉浦記念財団健康セミナーページ

公共の健康講座は別ですが 無料の講座の中には
その後、健康食品を販売することが目的だったりするものもあるので
ちょっとご注意頂きたいのですが(いくつか知ってます(^_^;))
きちんとした講座を受けることは情報源の一つです。
ご自身が受診されたり質問をされたりするときや
お医者さんを選ばれるときの目安にもなりますね。

さて、今回は 「痛みとは?-なぜ痛いのか?痛みの仕組みを考える」というものでした。
(健康ライフプラザのHPのメニュー左端になる健康学習というところをクリックすると
土曜健康科学セミナーというページがあります。毎週しているようですよ(^^))

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神戸大学医学研究科外科系講座 麻酔科学分野教授の溝端 知司先生が講義されました。
とてもよい勉強になりましたし、質問にも丁寧にお答えいただきました。

鍼灸・マッサージ(特に鍼)は、痛みという分野からは切り離せないところがあります。
また、物理的な側面だけではなく、心理面などの問題も含めて
痛みの科学と深い関係があることから
常に様々な情報、知識を関連付けていくことはとても大切なことになります。

お越しになられる中には、西洋医学的な治療でよくならないからと
東洋医学をお求めの方もこられます。
痛みを伴う不具合の方が多いことも特徴です。

医師ほか、私達のような施術分野の人間の中でも
「痛み」についてどのように扱うのかはそれぞれ分かれるところです。

私自身、非常に長い間全身の痛みに悩まされてきた経験があることから
「痛み」というものがどれほど生活に影響あるかをよく知っています。

医療や介護で使われる用語に
「QOL(quality of life:クオリティー オブ ライフ」というものがあります。
これは、「生活の質」という意味です。

痛みは、このQOLを格段に下げることがあります。
様々な疾患や外傷での痛み、予後などに起こってしまうものや、
精神的ストレスからきているといわれているもの、原因不明なもの
広い意味で言えば 痛みを感じることができない「無痛症」
沢山の様々な状態が痛みと関係があります。

これらのものは、全て一定の基準を超えるとQOLを大きく下げてしまいます。
ご本人のみならず ご家族やサポーターなどのQOLに関係することもあります。
状態によってはQOLだけではなく
ADLactivities of daily living:エーディーエル)も下げてしまいます
ADLとは、食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴などの
いわゆる「人が人らしく生活する為に必要な事柄」なのですが
痛みがあることによって制限されてしまうこともあります。
(痒みでもなることがあります。)

もちろん、大きな障害にならずとも
例えば日常の中で痛みがあると
仕事に支障がでてしまったり、
痛みが怖くて精神的‣肉体的な負担が生じたりと
良いことはないと考えられる方が多いかと思います。

ですが、一つ大切な事があります。

「痛い(思えない・感じないも含めて)には理由がある」ということです。

その原因は多岐にわたり、いまだ解明されていない事も多くありますが
普段 私達が痛みを感じないという状態にもちゃんとした理由があります。

それは、体の中での一つのバランスであり共同作業がうまく行っている状態です。
ところが、何らかの原因によりその共同作業が崩れたときに
痛みという形で「いつもと違う事が起こったぞ!」というお知らせが入ります。
普段、そのお知らせを大勢にする必要がある事はあまりなく
内うちで済ませられますが、規模によっては一時的に関係者に助けてもらったり
より、大勢の力や大きな機関の助けが必要なこともあるわけです。

いつもお話しているように、まるで人間社会と同じですね。
自分だけでドキドキすることもあれば、家族に協力してもらう事、
学校や仕事先、警察や病院などの組織に助けてもらわなければいけないこと
国全体に助けてもらわなければいけないことなどがあるのと同じです。

痛みだけではなく信号には、「閾値」とういうのがあります。
説明が少し難しいですが
真ん中に線を引いて バランスが取れているのをゼロとして
上を+、下を-とします。
ゼロから上に上がっても下に下がっても
何らかの信号(変化)があったことになりますが
人によってこのゼロに設定できる点が違うことや
同じ大きさの信号でも反応が違ってしまうこと
動きによる対応の仕方が大きく異なってしまうのも痛みの大きな特徴で
人によって痛みの感じ方が大きく違ってしまう事も
それぞれの対応が違ってしまったり、うまく伝わらなかったりの
原因でもあります。

痛みの原因といわれているものには多くのものがあります。
先日の講座の資料から引用させて頂くと
侵害刺激として機械的刺激、43度以上の熱刺激、15度以下の冷刺激
(他の資料からでは45度以上の熱刺激では
ポリモーダル受容器の興奮が痛みを引き起こす。
15度以下では痛みが起こる原因はわかっていないみたいです。
43度以上では、組織のたんぱく質変性が起こりますね。)

組織障害や炎症では ブラジキニン、プロスタグランジン、
サブスタンスP、ヒスタミン、セロトニン、H+、カリウムなどの
ケミカルスープと呼ばれる物質が出るとの事。

神経損傷では、Na(ナトリウム)チャネル、Ca(カルシウムチャンネル)、
神経栄養因子、AMPA(グルタミン酸受容体の一つ。)、
NMDA受容体(これもグルタミン酸受容体の一つ)
などが関わっているそうです。
その他として、血管拡張、白血球活性化、心理的増悪などとなっています。

例えば、侵害刺激にはモルヒネはよく効くそうですが、
組織損傷などには聞きにくいというようなお話もされていて
ペインクリニックや医療現場で使用される鎮痛剤、鎮静剤も
きちんと問診をしっかりとして原因や痛みの起こる機序、心理面などを
把握し、痛みの質に合わせた適切な薬剤と副作用も含め
QOLにあった方法で痛みをコントロールすることをおっしゃっていました。
また、東洋療法を選択することも一つの手段であるというようなふうにも
質問の際にはおっしゃっていただきました。
痛みを止めるのに現在現場で使用されている薬剤のジャンルだけでも
17種類(漢方薬を含める)あり、それぞれのジャンルで
いくつもの品名の薬剤が使用されているようです。

神経ブロックと呼ばれる方法の場合には、
機能的な障害等の副作用も含まれることから
QOLを考えての判断と処置が必要であるというお話も
他の方の質問でお答えになられていました。
(似た手段として、鍼でも神経刺鍼という
神経に直接アプローチする方法があります。
これについても、危険性や副作用等をよく考えて行う必要があります。)

先生もお話になられていましたが
痛みを必要に応じて必要なだけ、必要な形で
よりよいようにコントロールする事が大切ということについて
私も同じ考えです。

鍼灸などが痛みなどを抑えるなどの、医学的研究もありますが
なかなかこれらの物質等との関連性を検証するのが難しい事や
(おそらく伝達物質の変化があったとしても微量過ぎて検出不可能であったり
生体内の全身の把握はほぼ不可能であると考えられます。)
証立て、手技の方法、範囲、強弱他 受けられる方の体質、
状態、感受性他 非常に多くの複合的な事柄が絡むため
立証することはなかなか難しいのが実際です。
ただ、痛い部分に手を当てる(手当て)などについては
ゲートコントロール説に伴う実験結果があり
判っている部分もあるそうです。

これらは、私達が掌圧や軽擦を行うところにも通じますし
痛くない注射の方法という形でお話になられていたのですが

・細い鍼を使う
・皮膚を伸展させる(引っ張って自由終末(感じる場所)の隙間をあける)
・周りを抑える

というお話は、私達が鍼をうつ際に最初に指導される内容です。
(私達は注射より数段細い鍼を使用していますが原理は同じです。)

他として、注射の際は、細い鍼を使い薬剤をゆっくりと入れると
痛みの少ない注射ができるというお話でした。(薬剤の質、場所にもよりますが)
経験的にも(注射はかなりの数をうっているので)そう感じます。
組織的に、急激に過剰な変化が起こるほど反応しやすいということですね。

鍼の刺入の際にも、力加減や速さなどによって
違和感や痛みの起こり方に違うのも同じことです。
もちろん、コントロールにちょっとした刺激が必要な場合もあるので
あえて痛みを起こすこともありますが
その痛みの質をコントロールするのも技術的に可能ということです。
また、鍼灸で使用する鍼は、注射針と違い空洞がない為
引っかかりも少なく、薬剤注入による組織の押しわけも少ないので
痛みがほとんどありませんよとお話することが多いのですね。

当日、各物質ごとに痛みの質などが違うのかどうかという
質問をさせて頂きお答えいただいたのですが、
現状、血液検査などで物質を精査し痛みの原因を探ることは難しく、
個人の感性(状態を含む)が様々であることから
どの物質がどのような痛みに関連するということは
明らかになっていないというお話でした。
実際の現場でもこの事は一つのジレンマともいえるというお話もされていましたね。
血液検査で痛みの質や度合いが判るとよいですが
血液を採る時点で痛みも恐怖も起こってしまいますしね・・・。

「痛みをどこで、どのように伝え、どこが判断しているのか」を探ることは
非常に重要なことになります。
西洋医学的には、各受容器から脊髄、視床等をとおり
脳 (特に後頭葉だそう)が 識別、反応するという事になります。

施術の際に、西洋医学的な観点からの施術を行うこともありますが
その場合でも、何らかの信号が起こっているであろう感覚、
匂い、雰囲気、電気、色、物質の割合、素材、
構成、割合、関連ルート、質、入り先、出先、
前兆、予後など幾重もの複合的な要素を感じ取り、分析、判断しながら
これらの変化をどのように、どの程度、どのように取り扱うかを考え
施術する必要があると考えています。
この為、おだやか堂トンボ庵 では 四診を非常に大切にしています。

ご教授いただいた溝渕先生もおっしゃられていましたが
「痛くないのがいいことというわけではない」という事を
おだやか堂トンボ庵 では理解して頂くようにいつもお話しています。

確かに、過度の痛みは先ほどお話したようにQOLに関わります。
しかし、「痛みがなければブレーキはかからない」というのも
大切なことなのです。

無痛症ほか、何らかの問題で痛みを感じない(感じにくい)場合、
または、痛みの質や種類によって慣れてしまったり我慢してしまったりなど
構造的な異常が起こっているにも関わらず痛みを感じない(無視してしまう)ために
回復できる度合い、期間、対処する時期、必要性の判断が難しい事で
命に関わってしまうことも少なくないそうです。

おだやか堂トンボ庵 で来られる方への問診をしっかりと行い
問診で病院への受診喚起をさせて頂いているのは
このような理由があるからなのですね。

その他にも、私達 国家資格所持者は、在学時に
熱さや痛みを感じにくく、組織等の状態も通常と異なる為
年少者、高齢者や、麻痺のある方、糖尿病、免疫疾患他
訴える手段や表現、方法のスムーズでない方、
何らかの疾患、後遺障害をお持ちの方への施術を行う際には
より注意が必要であると指導されています。
このような把握にも問診は非常に大切です。

逆に、感じる必要のない痛みを受け取ることで
過剰な対処をすること(体の中、外など)によって生まれてしまう問題もあります。
このような場合、ブレーキを掛けすぎてしまうことにより
ストレスが過剰にかかってしまったり、
心身のスムーズな連携が損なわれ長期化してしまうこともあります。
これらの事も、四診でしっかりと把握することで
改善につなげていけるように努力しています。

鍼灸は、ミクロ、マクロの世界であると私は考えています。
通常の方が意識的に感じられないような
リアルタイムの微々たる変化を感じ取り、
大きなリスクなく、徐々にコントロールすることができる点について
東洋医学は有効であると考えています。

もし、ご自身で判断が難しい時には
かかり付けの医師、看護師、薬剤師、登録販売者、
その他医療関係の方ほか
おだやか堂トンボ庵 のようなところへのご相談も一つかと思います。

皆さんも、自分のお体におこる痛み他、様々な信号を
良い形になるように受け止め、
コントロールする手段をきちんと把握、提供をうけ
よい生活を送れるようにされて下さい。